「今回の撮影コンセプトについて教えてください」
リンデバーグのアイウェアを軸に、現実と幻想を行き来するような演出で撮影しました。まず、カメラマンさんとの息がぴったりで、セットやムード全体にウィットがあふれていて本当に楽しかったです。普段は自分がメガネをかけると思いもしませんでしたが、リンデバーグのフレームはとてもしっくりきました(笑)。実はドラマ『서초동』で初めてメガネ姿の役を演じることになり、一度決めたら全話同じメガネをかけ続けなければならなかったので、相当こだわって探していたんです。いろいろなキャラクターのメガネをチェックしていたら、最近観たドラマの主人公も同じリンデバーグをかけていて。それを思い出して、「このブランドだ!」と直感し、今回の撮影で使えると知って嬉しかったです。
「演技中、キャラクターに入る“合図”のようなものはありますか?」
特にこれといったものはないんです。毎回自分なりのスイッチを見つけようと努力していますが、まだ完璧には遠いですね。ただ、今回の『서초동』ではメガネがその役割を果たしました。キャラクター設定の際、「メガネをかけているときは理性的で落ち着いた印象を、外したときは感情の揺れを見せる」と自分にだけ約束していて。そのおかげで、シーンごとに視覚的にも心の動きを切り替えやすくなりました。
「『ビッグマウス』以来、3年ぶりのドラマ出演ですね。『서초동』でも『ビッグマウス』と同様に弁護士役を演じられていますが、『서초동』のアン・ジュヒョンはパク・チャンホとはまったく違ったリアルなビジネスマン像だとうかがいました。前作との違いを教えていただけますか?」
そうですね。前作では弁護士としての“戦い”よりもキャラクターの葛藤にフォーカスしていたのに対し、『서초동』では職業としての弁護士像をまるごと見せる作品です。ただ、法廷での熱い弁論シーンは多くありません。むしろ、複数のキャストが共演するアンサンブルドラマで、人と人との絆や日常のやり取りに重きが置かれています。アン・ジュヒョンは「勉強も口論も得意だから、勢いで弁護士になってみた」という、ごく自然体のキャラクター。大げさな動機ではなく、等身大のリアリティを大切にしました。(笑)
「この作品ならではの現場の雰囲気や、新しく得た発見はありましたか?」
僕を含め、ムン・ガヨンさん、カン・ユソクさん、リュ・ヘヨンさん、イム・ソンジェさんの5人がほぼ均等に主人公を務めるんです。だから、自分一人の新しい一面よりも、この4人の素晴らしい俳優たちと出会えたことが大きな財産でした。事件の山を築いてシナジーを生むタイプではなく、5人が食卓を囲むだけで画になる――そんな新鮮なアンサンブルドラマでした。自然とキャスト同士の距離が縮まり、良い刺激を送り合える現場になりましたね。
「共演した皆さんとのたくさんの会話の中で、特に心に残った言葉や影響を受けたエピソードはありますか?」
実は、役柄について深刻に話し合うというよりも、笑いながら日常的な雑談をすることが多かったんです。お互いに「この場面ではこうやったらもっと可愛くなるよ」とか(笑)、まだデビューして日が浅いカン・ユソク君には「こういう仕草を加えるといいかも」なんてアドバイスをして。それを聞いたユソク君は「やめろよ!」と言いつつも真剣に取り入れてくれて。本当に親友同士のように、互いのシーンでわざとNGを誘っては大笑いしていました。
「法廷ドラマは専門用語やセリフの密度がすごいですよね。『話しのキレ』が求められる役を演じるにあたって、参考にしたり重点を置いたりしたポイントは何ですか?」
台詞量が本当に多かったので、速く話しても一語一句はっきり聞こえるように何度も練習しました。今回の作品は堅苦しい法廷ドラマというより日常のオフィスドラマに近いので、話し方だけでなく見た目にも気を配りました。先ほどもお話しした通り、現場への移動中に「いいな」と思ったメガネがあるとフラッと立ち寄って試着したりして(笑)。流行りのカッコいいデザインではなく、きちんと知的に見えるフレームとスーツを選ぶようにしました。
「そういえば、弁護士や記者など専門職を演じることが多いですが、鋭いセリフで観る人をゾクッとさせるシーンもありますよね。ご自身が特にお気に入りの名セリフはありますか?」
鋭いセリフではなく、個人的に印象に残っているのは「月がとても美しいですね。」という台詞です。『ロマンスは別冊付録』で登場したもので、夏目漱石の小説から引用した一節を使って「愛している」という気持ちを伝えているんです。愛をストレートに口に出すのは照れくさいから、月を見上げながらそっと伝える――そのさりげなさが可愛いなと思いました。今回の作品では「それぞれ自分ができることをすればいいんですよ」という台詞が心に残っています。どんな状況でも、自分の役割に責任を持って向き合えばいいというシンプルながら力強い言葉でした。
「演技とは、自分のかっこいい部分や長所を理解して、適切に使いこなす領域だと思うのですが、ジョンソクさんはいかがですか?」
正直、自信はないですね。20代のころは自分をけっこう“かわいい”と思っていました(笑)。心は昔のままなのに、年齢を重ねると大人っぽい姿も求められるじゃないですか。30代になってからは、自分が何をすべきか、どの方向に進むべきかが少しずつわからなくなってきて…。一度立ち止まって考えるべきタイミングだったのかもしれません。いまだに答えを探している途中です。演技スタイルとしてはシンプルなほうだと思ってきましたが、キャリアと作品を重ねるほどに、「ちょっとくどく響いているかな?」とも感じるようになって。だから、本来の“あっさりとした良さ”を取り戻せないかと考えています。
「一方で、自分の足りない部分とも向き合わなければならないですよね?」
経験を積むほど、自分の至らない点がはっきり見えてくるんです。以前は自分を責めていましたが、今は周りの仲間に相談するようにしています。視線の使い方や笑い方の微妙なニュアンスについても話し合って。「兄さん(先輩)、このシーンではこんな雰囲気にしたいんですが、自分にはこの表現しか思いつかなくて…。先輩ならどうすると思いますか?」といった具合に、先輩方ともよく意見交換しています。
「『君の声が聞こえる』、『ピノキオ』、『あなたが眠っている間に』など、ファンタジーロマンスの分野では多くの人がイ・ジョンソクさんを欠かせない存在だと考えています。俳優として最も“フィット”するジャンルは何だと思われますか?」
以前は、ロマンスものだけは自分でも「これはうまくできそうだ」と思っていました。何度もラブストーリーを演じる中で、「その枠の中でも新しい一面を見せられないだろうか」と必死に考えた時期もありました。でも今は、ジャンルの境界がはっきりしなくなってきています。自分がどのジャンルに特化した役者なのか、はっきりと言い切れないんです。演技も「目の前にあることだけを全力でやろう」と考えるようになりました。昔はインタビューでかっこいい言葉を残さなきゃと意気込んでいましたが、今では素直に「うーん、特にないですね」と答えています(笑)。これが自然なのかなと思いますね。
「では質問の角度を変えてみます。気づけばデビュー15年目ですが、多様な世界や環境を経験する中で、自分でも知らなかった潜在能力を発見されたのではないでしょうか?」
正直まだ探り探りですが、俳優として作品に携わるのはもちろん楽しくて面白いですし、もし別のポジションでも関われるなら、きっと心から楽しめると思います。潜在能力と呼べるかはわかりませんが、機会があればいつかプロデュースにも挑戦してみたいですね。
「Instagramに投稿された写真を見ると、ジョンソクさんの表情のほとんどが“本物の笑顔”に見えてとても印象的でした。お仕事でもプライベートの旅行でも、海外で素敵な思い出を残していらっしゃいますが、新しい街に行くときはどんなことを心に留めていらっしゃいますか?」
特に何かを大げさに期待しているわけではなく、その場所で生まれるさまざまな感覚と感情の変化を楽しんでいる気がします。期待せずに訪れてみると、自分でも気づかなかった風景や出来事が視界に飛び込んでくるものですよね。それから、正直に言うと飛行機に乗っている“フライト状態”が好きなんです(笑)。あのときは猛烈なスピードで大空を駆け抜けているのに、まるで時間が止まっているようで、周りの音もなく、どこか無重力のような安心感があります。
「どこかへ出かけなくても、最もリラックスできるのはどんなときですか?」
何も考えるべきことがない瞬間ですね。撮影中はオフの日でさえ、つい仕事のことを考え込んでしまいます。スケジュールの先を常に意識してしまうので、作品が始まる1週間前にも休めず、頭の中はずっとそのことでいっぱいに。でも、本当にゆとりを取り戻したいときは、何もしないんです。家にいるのがいちばん安心できて、音楽もかけず、照明を落としてベッドにもたれかかり、頭の中を空っぽにします。細かな雑念は浮かんでも、翌日には全部忘れてしまう程度のささいなことだけを思い描いて。「次は何を食べようかな」くらいの軽い考えしか持たないときが、一番平和に感じます。
「今年も半分が過ぎようとしていますが、最も意義深く記憶に残っている出来事は何ですか?」
そうですね、今年は干支でいう巳(み)年です。僕も巳年なので、なんとなく「今年はうまくいきそうだな」という漠然とした予感がありました(笑)。実際には、もっとゆっくり休みたいなと思うこともあったのですが、僕を待ってくれている方々の顔がすぐに思い浮かんで、「昨年から今年は本気で働こう」と決め、計画を立てたんです。だから、これまで挑戦していなかったジャンルや作品は何だろう? と自分に問いかけました。これから取り組むプロジェクトも、好きなものや楽しいもの以上にチャレンジングな内容ばかりです。まだお見せできていませんが、この決意や選択は僕にとって非常に意味のあるものになりました。
「十二支の運命を信じているんですね?」
MBTIは本当に信頼できると思っていますが、干支や星座占いの類いはたまにチェックします。注意すべきことが書かれているときは覚えておきますが、あまり良くない運勢が出たらすぐに忘れちゃいますね(笑)。
「ドラマのタイトルにもあるように、一番好きな街はどこですか?」
特にないですね…(笑)。街ごとにそれぞれ違った魅力や特色があって、実際に足を踏み入れるとその土地の雰囲気に引き込まれてしまうんです。だから「ここへ行きたい」「あそこに行かなくちゃ」と思い至るまでには至りませんね。
「『再婚皇后』のキャスティングでも話題になりました。もうすぐ撮影に入ると伺いましたが、どんな思いで準備を進めていますか?」
原作が非常に人気のファンタジーウェブ小説なので、実写化は監督さんやキャスト、スタッフ全員にとって大きな挑戦であり冒険だと感じています。準備すべきことは山ほどありますが、それだけにワクワクしています。原作も隅々まで読み込んで、監督のディレクションには素直に従い、「こうしろ」と言われたことは何でもやってみるつもりです(笑)。
「今回演じられるのは『ハインリ・アレス・ラズロ』という、なかなか馴染みのない名の王子様ですね。」
「あと5歳若ければなあ!」なんて冗談を言うこともありますし、時にはちょっと愚痴っぽくもなりますけど(笑)、それでもしっかりやり切ります。
「今年のジョンソクさんのスローガンは『どうしようもなくても、やるしかない』ということですね。」
はい、その通りです。乗り越えますし、成し遂げます。