「フィリックスさん特有の、いつも人を気遣いながらも重くならない絶妙な距離感がありますよね。その姿勢が際立つ瞬間がショート動画でも話題になりましたが、これは家風の影響でしょうか?」
そうかもしれません。幼い頃から大人と過ごす時間が長かったおかげだと思います。おじいちゃんやおばあちゃんはもちろん、ひいおばあちゃんとまで一緒に暮らしていましたから。家族と過ごす時間が多かった分、礼儀作法や人生の基本的なルールを自然と学びました。つい最近も、YouTubeの『ホン・ソクチョンの宝石箱』に出たときにホン・ソクチョン先輩から「こんな環境でよく育ったね」と褒めていただいて、僕も「ああ、本当にその通りだな」と感じました。家族にはいつも感謝しています。
「ごきょうだいの仲も、一般的な兄弟姉妹とは少し違う印象があります。オーストラリアのご実家に帰って妹さんにサプライズする動画を見たんですが、涙を流しながら抱き合う姿がとても愛おしかったです。」
(笑)幼いころ、妹とは本当に毎日のように遊んでいました。もちろんふざけ合うことも多かったんですが、喧嘩よりも「楽しさ」や「愛情」を与え合う関係でした。だからあの動画も、ごく自然に愛情があふれた瞬間だったんだと思います。自分でも、うちの家は本当に愛にあふれていたんだなと改めて感じました。
「学時代のエピソードとして、『学校の子たちがフィリックスくんを見るために親の車ではなくスクールバスに乗ってきた』という話を聞きました。また、『陽だまりのどこでも寝てしまうのが好きな生徒だった』とも。そう聞くと、まるで純愛マンガの主人公のようなイメージです。人気はあるけれど、同年代の友だちの世界にはどこか無頓着で、一人で屋上で孤独を楽しむ──そんな感じでしょうか?」
(笑)僕自身、どんな子どもだったのかよくわからないんです。小さいころは友だちも本当に多くて、楽しいことや面白いことが大好きでした。でも、中高生になると少し変わった気がします。成長期ですし、考えることが増えて、今までなかった責任感も出てきましたから。
「中学生でそんなに責任感を持つものですか?」
僕の場合、そうせざるを得ない状況だったんだと思います。幼いころから音楽の道に進みたいという夢があって、「もしこのまま何も成し遂げられなかったらどうしよう」と悩むことも多かったんです。自分の人生で何をすべきか、真剣に考えていました。だから、ダンスをしたりピアノや歌を習ったりしていても、ただ楽しいから――というだけではなく、「結果を出さなきゃ」という思いで必死だったんですよね。
「初めての自作曲『Deep End』は、当時感じていた感情を広げて作った曲だとうかがいましたが。」
ええ。僕のMBTIはENFJで、“F”(Feeling)が強いタイプなんです。特に曲作りをするときは、いろいろな感情のひとつひとつに注目して、特定の感情に深く結びついた状態で書くようにしています。だから、思い出がすごく大事なんですよね。経験を通して人は成長すると思いますし、その経験を乗り越えたときに感じたことが、多くの人と共感できる栄養になると信じています。
「『Deep End』から最近リリースされた『Unfair』まで、ちょこちょこ自作曲を発表されていますが、作詞・作曲は今のフィリックスさんにとってどんな意味がありますか?」
まさに「共感」を生む手段だと思っています。自分が心を込めて作った作品をファンの皆さんや、もっとたくさんの人に届けたい。でも、やっぱり発表した後に一番大きな意味を感じるのは、その曲に対するリアクションなんです。「あ、この感情は僕だけが感じているわけじゃないんだ」「別の状況でも同じように感じられるんだ」「僕たちはこうして共感し合えるんだ」と、リスナーの声を読むたびに胸が熱くなります。
「『Unfair』は珍しく『美女と野獣』をモチーフにしているそうですね。」
ある日、妹が「『美女と野獣』を観たよ」と言うんです。僕も昔観たのを思い出して、「ああ、あれ面白かったな」と返事をしたら、子どもの頃に抱いた感情がまるでデジャヴのように蘇ってきて。あの時は理解できなかった感情が、大人になってから理解できるようになっていたんですよね。改めて映画を観直すとぐっと深く入り込んで、「もし僕が野獣だったらどうしていただろう」「ベルは僕にとってどういう存在なんだろう」「あの場面でどんな気持ちだったんだろう」と想像が止まらなくなって。そのストーリーを自分の言葉で語ってみたくなったんです。同じ物語でも、どう表現するかでまったく色が変わりますから。
「『Deep End』で思い出と感情のつながりを探ったときとはまた違う、新しいアプローチの作品と言えますか?」
「共感」という点では一貫していると思います。今、僕は歌手として生きていますが、もし違う人生を歩んでいたらどんな感情を抱いたのかを想像してみる。それを音楽に落とし込み、歌詞を書くときも常にその共感を基盤にしています。
「『Unfair』はラッパーとしてもボーカルとしても、フィリックスさんの多彩な可能性を感じさせる曲だと思います。存在感のある声質は知っていましたが、あれほどダイナミックに使って一曲を飽きさせずに彩るとは、改めて驚かされました。」
そう言っていただけて嬉しいです。僕も、曲を動きやメリハリをつけて展開するのは楽しいと感じています。ただ同時に悩む部分でもあって、いくらバラエティ豊かにしても“自然さ”は大切にしたいんです。だって、どんなにテクニックを凝らしても、最終的に伝えたいのは感情ですから。だから『Unfair』のときは、本当にたくさん練習して、時間をかけて準備しました。ファンの皆さんに届けるストーリーでもあるし、自分の中の新しい一面を見せたかったんです。
「いつも“二倍で返す”というお考えなんですね。」
それくらい感謝しているからこそです(笑)。僕のファンは、いつも僕を応援するためにいろいろ考えてくれるじゃないですか。「どうすればもっと喜んでくれるだろう?」って。だから、「君たちがくれた愛にありがとうを伝えるには、僕もその分だけ努力して、これからも新しい姿をたくさんお見せしよう」という気持ちで作品を作っています。自分の頑張りが、最終的にはそうしたメッセージとして届くと信じています。
「温かくて健やかな心をお持ちですね。Stray Kidsのメンバーがフィリックスさんについて語るコンテンツがありましたが、長年ともに苦楽を共にしてきたメンバーたちも、フィリックスさんを本当に素晴らしい人だと驚いていました。それもご家族の家風の影響でしょうか?」
うーん、どうでしょうね。実は僕がずっと覚えている映画のセリフがあって、「Do you believe you’re a good person?(自分がいい人だと信じますか?)」という問いなんです。もし誰かにそんなふうに尋ねられたら、僕も正直「Yes」とは言えない気がして。「I don’t believe I’m a good person. But I try to be.(僕はいい人とは思わない。でも、そうあろうと努力する)」という答えがすごく胸に響いて、何度も噛みしめました。
「先天的な優しさもあるでしょうが、フィリックスさんは基本的に“いい人”であろうと努力しているんですね。」
その通りです。僕は本当にたくさんの人と出会う仕事をしていますし、大切な人も周りにたくさんいます。新しい出会いも大好きで。だからいつもオープンな心でコミュニケーションを取りたいし、相手の話をしっかり聴いて、ポジティブなエネルギーや幸せを届けたいんです。でもそれはマインドコントロールでも演技でもなくて──互いに相手がどんな状況かはわかりませんよね。今日どれほど大変だったか、どれだけ忙しい毎日を過ごしているか。そう思うと自然と、人に対して優しく接したくなるんです。
「インタビューの冒頭での握手を思い出します。」
僕と握手を?
「はい。入ってこられたときに『さっきはきちんと挨拶できませんでした』と言って目を見ながら握手を求められたじゃないですか。そのとき感じたあの不思議な感動は“ナイスな態チュード”だと思ったんですが、こうして深く考えてみると“シンシア(sincere=真心)のマインド”だったんだと思います。」
ありがとうございます(笑)。真心を持っていたいという思いもありますし、僕は人と会って話をするこの場が本当に好きなんです。人はみんな違う──それ自体がまだ僕にはとても面白くて、素敵なことだなと思うんですよね。